プロローグ 2
薄茶色の頭をした男は、見たところ神谷よりは年上だがそう離れてもいない、おそらく高校生だろうと思った。
いつからいたのか、と思って、公園に入ったときにベンチで寝ていた男だと気づいた。
「一人じゃつまんないだろ」
「いいです」
必要ない、と態度で示した。
平日のこんな時間にベンチで寝ているような人間とかかわりたくない、というあからさまな意思表示をしたはずだ。
はずだが。
「いーから、いーから」
なにがいいのか、怪しげな男は神谷の態度を気にも止めずにゴールの前に陣取ってしまう。
「・・・どいてください」
「俺からゴールが奪えたらな」
「・・・・どけよ」
怒りをこめていうと、男は嘲るように笑った。
「一本でもお前がシュートを決められたらどいてやるよ。ま、無理だけどな」
自信たっぷりに笑う男は、神谷の神経を逆なでした。
どこの馬鹿だが知らないが、そこまで言うなら一度でどかしてやる。
個人プレイなら、ましてこのPKのようにGKにとって止められる可能性の最も低い場面で、神谷が負けたことはほとんどない。
この距離のシュートを止めるのがどれだけ難しいかわからないような素人に、自分のシュートがとめられるわけがないのだ。
「やる気になったか」
男の顔めがけて蹴ってやりたいのを我慢して、ゴールの四隅、右上の角を狙った。
「なっ・・・・!」
「ふーん。こんなもんか」
片手で止められた。
余裕で。
「狙いはいいけどパワーねえな」
そんなはずはない。
確かに神谷はシューターではないが、それでも片手一本でとめられるほど軽いシュートを打ったつもりはないのだ。
「もう一回だ・・・・!」
声に悔しさがにじむのを隠せなかった。
「・・・・・」
「まだやるか?あと100本うっても無駄だけど」
荒い息をつく神谷とは対照的に、男はあまり汗もかいていないようだった。
「お前パワーねえよな。それ、読みで補ってんだろ?それなのに、そんな簡単に頭に血が上るようじゃ一生かかっても俺からゴールを奪うのは無理だな」
「・・・うるせえ。・・・・俺のシュートはそんなに軽くねえっ・・・」
「軽いよ。こんなんじゃ高校はいったら通用しない。お前、中学生だろ?」
言い切られた悔しさで目の前が真っ赤になる。
「でも練習の仕方は悪くねえな。頭つかってやれる奴は嫌いじゃない」
そういって、手のひらで遊んでいたボールをぽんっと神谷に投げると、そのままゴール前から動いてしまう。
「まてよ!」
「これ以上やってもかわんねえよ。ああ・・・お前、中三?」
「それがどうした」
「なら帝光にこいよ。そしたら続きをやってやる。それから、強くしてやるよ」
帝光学園といえば、高校サッカー界でもっとも有名な高校だ。
驚いて顔を上げると、もう男の姿は見えなかった。
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